テレビ東京『アニメノチカラ』枠で放送した第一弾のアニメ。『アニメノチカラ』はその後第三弾まで放送し、たいした話題を呼ぶことも無く終わってしまいました。フジテレビ『ノイタミナ』と比べてしまうと個性が感じられないし、わざわざ枠をとっている意味も視聴者側からするとよくわかったので終わってしまうのも仕方なかったかなと思います。
さて、ソラノヲトについてですが、実は私の中ではギリギリ指折り数えられるくらい好きなアニメのひとつだったりします。しかし同時に大きな声で「あれは良かった」とは言いにくいアニメでもあります。世間的なこのアニメの評価は「まずまず」「意外と良かった」程度のものが多いようです。世間の評価と自分の評価がずれているというだけでも少し不安にはなるのですが、このアニメについて私が口ごもってしまう最も大きな理由は、自分自身で自分の評価が高い理由が分かっているからなのです。
誤解を恐れずに言うと「女の子しか出てこない」ということが最大のポイントです。これについては色々あるのですが、要するに私の性分として男性キャラの扱い次第で例え良いアニメだっだとしても肝心な部分が頭に入らなくなってしまうことがあるというのが問題なのです。「女の子が出てくると良い」のではなく「男性キャラがいないに越したことはない」ということです。当然、男性キャラがいるアニメで好きなものもたくさんありますが、評価が決まるまでの一番最初の分岐点に「男性キャラの扱い」があることは間違いありません。
前置き(言い訳)が長くなりました。女の子だけだからといって評価がプラス方向に動いているわけではないということだけ踏まえて頂ければと思います。一応、5つ星評価は減点方式で付けていますので。
ソラノヲトは私の好きなアニメでもあり、記憶の変な引き出しに入っているアニメでもあります。まず純粋に誰もが評価するであろう点として建物、街並み、背景の素晴らしさがあると思います。舞台は崖に面した小さな町とその上に立つ砦です。中世ヨーロッパ風(たぶん)の建物と廃墟が岩の上にそびえている感じで、これは良い意味で「ジブリ的」で世界への没入感があります。さらにタイトルからも連想される「空」も崖とのコントラストがとても美しく感じました。
そんな美しく「ジブリ的」である世界にいるキャラクター。ここが賛否を分けそうなところです。放送当時は「けいおんじゃん」などと話題にもなりました。確かにこの世界観にこのキャラデザインはやや不自然です。私はこの違和感がむしろ面白かったりするのですが、世間の評価が「そこそこ」止まりなのはこのあたりが原因なのだと信じたいところです。
最初から終盤に入るまで主に描かれているのは、この「カワイイ兵隊達」が過ごす辺境の戦闘とは無縁となっている駐屯地での日常です。このアニメを単にほのぼの系アニメとして楽しむこともできるでしょう。しかし、どうしても気になってしまうのは、その日常の下に渦巻く底知れない「何か」なのです。なぜ戦争なのか、なぜジブリ的世界観なのか、そしてこのアニメには「人類は一度滅びかけ、文明はリセットされている」という設定があるのです。本編ではたまにしか触れられないのですが、明らかに過去の人類への含みを持たせてあります。「天使のような何かに滅ぼされた」ということ以外、はっきりとした答えは与えらず解釈は視聴者に任されているのです。
ここまでの謎を潜ませておきながら表面上は萌えアニメであるというところが非常に怖いです。日常パートをニヤニヤしながら観ているような堕落した視聴者に何か大きな罰が待っているのではと勘繰ってしまうほどです。考えすぎかもしれませんが、この方が楽しめると思います。
この予感はある程度現実になり、終盤には平和だった砦にも戦争の波が押し寄せます。
ここからの展開はかなり重厚で、普通に感動します。特に途中で使われる音楽が非常に効果的に感じました。劇中歌「アメイジング・グレイス」は戦争の敵、味方関わらずすべての人の心に響きます。この曲は一説では19世紀アメリカで誕生し、現在ではアメリカだけでなく日本でも数多くの歌手によって歌われるなど、馴染みの深いものになっています。これはアニメ内でこの曲が戦争中の2国をつなぐ架け橋となっていることに通じるところがあります。さらに現実にもある曲を使うことで滅んだ旧時代(現在)からのつながりも感じることができるのです。もともと良い曲だからということもあるかと思いますが、最後にこの曲が流れる時の鳥肌感はなかなかのものです。あと、曲とのからめ方という点では、梨旺との別れまでの件の感じも感動しました。(曲優先でセリフの音が無くなるところとか)
ちなみに前々回更新した『エルフェンリート』も曲が素晴らしいみたいなことを書いたのですが、エルフェンリートもソラノヲトも監督が神戸守さんだったみたいです。製作側のことはあまり気にしないようにしていたのですが、どうやら私は神戸守さんの演出が好きみたいです。
ソラノヲトは『灰羽連盟』というアニメの影響を受けているのでしょうか?改めて観てみてそんな気がしてきました。
言われてみれば似ている部分が色々とあります。大きな部分でいえば、舞台となっている町以外の世界に相当な含みを持たせている点や、主人公たちは町のはずれに町人とはとは少し違った存在として生活しているという点などがあります。また、主人公たちの暮らす建物が廃墟にちかいところや、先輩たちから脈々と継がれるものがあること、天使が登場することなども似ている点です。それからキャラクター面では梨旺とレキの存在感も似ていたと思います。
灰羽連盟はどこまでも抽象的に描かれていた内容でしたが、ソラノヲトはその答えの一つのパターンだったと考えることはできないでしょうか。
[5回]
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